以前、潰れる飲食店の前兆について記事を書きました。
それは、お客様など外野から見て前兆と捉えることができるお店の様子をピックアップした記事なのですが、(ちなみにその記事はこちら→潰れる飲食店のその前兆。現役経営者が実際に見てきた潰れるお店の前兆とは?)
それを見てくださった方から「経営者側から警戒すべきシグナルはあるか」というご質問を頂きました。
あるにはあるんです。
もちろん、売り上げの減少や稼働率の低下という、わかりやすい警戒シグナルはありますが、それではちょっと当たり前すぎるので、今回は意外と気付きにくい現象とよくある経営者の心理について深堀っていこうと思います。
廃業に至るには様々なケースがあります。一概に「これです」というのは難しいのですが、お店が潰れていく背景として一番よくあるパターンから『潰れる前兆』を解説していきます。
潰れる前兆 = ある現象と経営者の心理
まず現象について解説します。
私は常々言っていることなのですが、それは、
お店に来るお客様が同じような団体、同じような顔ぶればかりになる…
ということ。ひとまずこれが黄色信号です。
といっても、これは特に珍しい現象ではないので赤ではなく黄色信号としています。
お客様たちにもブームや環境の変化がありますから、一時期に顔ぶれが偏ることはあります。
なぜ同じ顔ぶれが黄色信号なのかはこちらの記事『常連しかいない店は潰れる?集客の妨げにもなり得る「うざい常連客」の危険性。』で解説していますので、詳しくはここでは割愛します。
お店が潰れていくパターンとしては、
お客様の来店数が次第に減っていき…
同じ顔ぶれ、限られた常連客だけが残り…
晩年を迎える。
という流れがよくあるパターンかと思います。
その黄色信号をどれだけ早い段階で自覚できるか、という点が死活の分かれ目となります。
自覚できずにいればそのまま閉店の一途ということですね。
さて、私は総体的に見て、この現象を経て廃業される経営者たちには2つの共通点があると考えます。
ひとつは、永遠に続けなければならない集客活動を怠っていること。
当然です。お客様は入れ代わり立ち代り変化していきます。去っていくお客様がいるのだから新しいお客様を呼べなければ減る一方です。
もちろん、メニューや接客、その他の環境についても見直す必要はありますが、何よりもまず自分のお店の魅力を発信し続ける基本作業がなければお客様はこっちを見てくれません。
このような集客活動を怠っているのに「店がヒマだ」と嘆いてる経営者は、矛盾していますが結構いるものなんですよ。
これに関してはこちらの記事でも詳しく解説していますのでよろしかったらご参照下さい。
客が減った・来なくなった意外な原因「新規客へのアプローチ不足」飲食店の永遠の集客活動
そして、肝心なのがもうひとつの共通点。
これが今回の話の主体となるのですが、危機的状況なのに変わることから無意識に逃げている人です。
無意識というだけあって、大変気付きにくく手遅れになりやすい魔物です。
どういうことか説明する前に、それにあたり重要な「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」というお話からしたいと思います。

弱い紐帯の強み
弱い紐帯(ちゅうたい)の強み、英語ではWeak Tiesと言いますが、これはもともとはアメリカのある社会学者が、企業と労働者のマッチングのメカニズムを調べた研究から提唱された社会的ネットワーク理論です。
まず、『弱い紐帯』とは何を指すかというと、例えばジムやバーなどでたまに会う人、友達の友達など、社会的関係性が薄い人たちを指します。今の時代はSNS上の繋がりもそうですね。
わかりやすく以後『顔見知り』とします。
その逆の『強い紐帯』は家族、友達、同僚など親密な繋がりがある仲間やグループを指します。以後『仲良し組』としますね。
仲良し組との関係性は、似たような環境、志向性、価値観を持つ場合が多く、彼らから得られる情報は大して目新しさのない偏りのある情報となる傾向があります。
そもそもそういった閉鎖的なコミュニティでは共生意識が強くなるので風通しの悪い環境になります。
一方、顔見知りとの関係性は、自分と異なる環境や価値観を相手が持つことも多く、新奇性が高い情報や、思いもよらない発想をもたらしてくれる可能性が高まるのです。視野が広がるので発展性も有しています。
また顔見知りは、仲良し組(コミュニティ間)の橋渡し的な役割を担うとされます。情報を広く伝播することができ、他の仲良し組同士の相互理解を促進すると言われています。
もちろん仲良し組との付き合いが悪いというわけではありません。
飲食店経営者にとっては、常連客や従業員、持ちつ持たれつな同業者や関係者がそれにあたりますから、大切な存在ですよね。
しかし、飲食店経営においては、その仲良し組との関係に重きを置いて考えてしまうと、お客様が減ってしまう可能性が高まると考えます。

強い紐帯の関係を重視する経営者は無意識に変化を嫌う
仲良し組ばかりの付き合いは、半ば『依存』とも言える関係になりやすく、その緊密な性質上、外部と遮断されがちで新規の情報やチャンスにめぐり合える確率が減ります。
また、繋がりが強固であるがゆえに保守的な傾向にあり、環境を変化させづらくする心理的な弊害が生じやすいのです。
それでなくてもそもそも日本人は、変化を恐れる性質を持った人が多いと言われています。
仮に今の状況に不満足で「変わりたいな」と思っていたとしても、現状維持にしたり挑戦せずに済む理由を探したりするのです。
なぜならリスク(費用、労力、我慢、努力など)が伴う可能性を考えるからですね。
「タバコをやめなきゃ…でも吸えなくなったらストレスが溜まる」
「転職したい…でも今のキャリアを続けたほうが安定的だ」
「痩せたい…でも忙しくて運動もできないし付き合いで外食も多いから難しい」
といった具合に。
しかしながら『店が潰れそう』というのは一刻の猶予も許さない死活問題。
なのに、それでも変化から逃げるのか?って疑問に思いますよね。
こういうことです。
実は、仲良し組の関係性に重きを置いている経営者のお店は客層が偏りがちです。
そしてお店が小規模であるほどどうしてもこの現象は起こりやすいと言えます。
小さなコミュニティ、閉鎖的なコミュニティを好む人は、開放性(拡散的思考や好奇心)が低めです。
コミュニティの絆が強いがゆえに、他のコミュニティを警戒、遮断、敵視さえしたりします。
そのため同じ顔ぶれになってきていることへの危機感よりも、このコミュニティを守ろうという心理のほうが優位なっていると言えます。
新しい人との出会いや、情報を得たりチャレンジすることよりも、できるだけ現状を壊さないように…という思考が主体的に働くのです。
わかりやすく言うと、
馴染みの常連客に対し、心的な繋がりから「ずっとお店に来つづけてくれるだろう」という根拠のない安心感を抱いたり…
新規客をバンバン呼びこんでしまったら、積み上げてきたこの良好な関係と憩いの場が壊れるかもしれないという不安要素を考えたり…。
また、仲の良い関係者や同業者同士とは「最近ヒマだよ」「うちも」「どこも不景気さ」「来月くらいには戻ってくるよ」と傷を舐め合ったり、“みんなも同じだよね” という謎の同調心理が存在していたりします。
ヒマな日が増えてどこか焦りを感じつつ…
環境を変えることに消極的になっているうちにまた1日が終わり…
あっという間に何ヶ月も過ぎて手のつけられない状態に。
さて、そんなタイプの経営者はおそらく日頃からこんな面があることでしょう。
・「今は閑散期だから何やっても無駄」「良い時もあれば悪い時もある。じきに良くなるだろう」
のように、なんとかなると言い聞かせたり、アクションを先延ばしにする。
・常連客主体の営業、または馴れ合いのような営業になる。そのため一見さんの来店に対しては素直に嬉ぶよりも、やりづらさや警戒心または緊張などが先に立つ。
・ステレオタイプ。新しい発想がないので商品やサービスにマンネリ感がある。新メニューを考えるもどこか既存メニューと似ていたり、新たな取り組みに否定的だったり。
・同じような場所、同じような人たちとよくいて、いつも同じような会話や行動パターンがある。変化が怖いので、自分が心地の良い『いつもの』にずっと身を置いている。
また、同じコミュニティによくいる人は、自分の思想が最も正しいと思い込んでしまう傾向があります。
これはエコーチェンバー現象と言って、自分と似たような価値観を持った人たちのコミュニティでは自分の意見が肯定されやすいため、思想が強化されたり、それが正解であるかのように勘違いしてしまうという、群れの性質を持った人間が陥りやすい心理現象です。
客観的、多角的視野に乏しくなりますから、危機的状況を認識し難くなる要因のひとつでもあります。
このように仲良し組は、心を癒せる大切な存在でありながらも、変わらなければならないという局面では心の錘(おもり)になってしまう存在でもあるのです。
群れというのは脆弱な生き物たちが生き抜くために備えられた術。
しかし時として「群れから離脱してでも変わるんだ!」くらいの意気込みがないと共倒れになる可能性も潜んでいるのです。

結論、変化を恐れていることに気付かず、集客活動を怠っている経営者は自身のお店を潰す、ということなのですが、では、どうすれば良いのか解決策が欲しいところでもありますよね。
次回はそれについて解説していこうと思います。
その次回話はこちらです。
飲食店が潰れる前兆に直面!廃業させないための集客術とは?(弱い紐帯の強み)
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