以前、【『○○になったら警戒せよ』潰れる飲食店の前兆と特徴。意外と気付きにくいある現象と経営者の心理】という記事で、経営破綻の兆候がありながらも無意識的に変化から逃げて、手遅れになり廃業せざるを得ない状況に陥ってしまう飲食店経営者の特徴について解説しました。
その中で少しだけ触れた『弱い紐帯の強み』という理論。
経営に携わっている人なら誰もが何かしらの障害にぶち当たることがあると思います。
崖っぷちに立たされたとき、戦術や情報がなければ崖から飛び降りるしか方法がありません。
しかし日頃から『弱い紐帯』という、頼りなさそうに見えて実は強力な味方をつけておけば、戦術や情報を蓄えておくことができるので、困難を乗り越えられる可能性が格段に上がります。
今回はこの『弱い紐帯の強み』について詳しく解説していきたいと思います。
私は、顧客心理などを踏まえた飲食店経営について綴っている飲食店経営者なので、今回も飲食店経営の観点から解説していきますが、飲食店ならずとも経営に携わる方みなさんにお役に立てる内容になっておりますので、経営戦略のひとつとして参考にして頂ければ幸いです。
弱い紐帯と強い紐帯
近年、ビジネス戦略などにおいて『弱い紐帯(ちゅうたい)の強み』という、数十年前に提唱された理論が再注目されています。英語ではWeak Tiesと言います。
『関係性の薄い人たちこそ自分にとって新しく価値の高い情報の伝播やイノベーションをもたらしてくれる可能性が高い』という社会的ネットワーク理論です。
もともとは企業と労働者のマッチングのメカニズムを調べた研究によって、アメリカのある社会学者が提唱したものです。
紐帯とは何かと言うと、人々の繋がり、社会的関係性のことを指します。
ですので『弱い紐帯』は社会的関係性の薄い人、例えばジムやバーなどでたまに会う人、友達の友達など、連絡を取り合うような仲ではないけど会えば挨拶や会話くらいはする、顔見知り程度の人たちを言います。今の時代はSNS上の繋がりもそうですね。
わかりやすく以後『顔見知り』とします。
その逆の『強い紐帯』は家族、友達、同僚やなど親密な繋がりがある仲間やグループを指します。
以後『仲良し組』としますね。
仲良し組との関係性は、似たような環境、志向性、価値観を持つコミュニティであるため、得られる情報は自分の好みや思考に寄った情報となる傾向があります。
共生意識が強く互いにフォローし合い、信頼感や精神的な安らぎももたらしてくれます。
一方、顔見知りとの関係性は、自分と異なる環境や価値観を相手が持つことも多く、新奇性が高い情報や、思いもよらない発想をもたらしてくれるので、発展性を有しています。
この仲良し組と顔見知り、社会的関係性においてどちらに重きをおくかで、飲食店経営にも大きく影響します。
では、それぞれの特徴をみていきましょう。
仲良し組派の経営者は無意識に変化を嫌う
仲良し組を重視した付き合いは、団結や助け合い、気持ちを分かち合うことで、その群れの中ではとても生きやすくなります。
それゆえに半ば依存的関係にもなりやすく、その緊密な性質上、外部と遮断されがちで風通しの悪い環境になりがちです。
また、繋がりが強固ゆえに保守的であり、環境を変化させづらくする心理的な弊害が生じやすいのです。
それでなくてもそもそも日本人は、変化を恐れる性質を持った人が多いと言われています。
例えば今の状況に不満足で「変わりたいな」と思っていたとしても、現状維持にしたり挑戦せずに済む理由を探したりするのです。
失敗やリスク(費用、労力、我慢、努力など)が伴う可能性があるからですね。
「タバコをやめなきゃ…でも吸わなきゃストレスが溜まる」
「転職したい…でも自分が辞めたらみんなに迷惑がかかるだろう」
「痩せたい…でも忙しくて運動もできないし付き合いで外食も多いから難しい」
といった具合に。
とはいえ、飲食店に限らずとも『経営破綻』という一刻の猶予も許さない危機的状況ならば、そうも言ってられないのでは?とも思いますよね。
しかし実際にこういうことが起きるのです。
実は、仲良し組の関係性に重きを置いている経営者のお店は客層が偏りがちです。
これはお店が小規模であるほど起こりやすい現象と言えます。
そして閉鎖的または局所的なコミュニティを好む人は、開放性(拡散的思考や好奇心)が低めで、新奇の情報やチャンスにめぐり合える確率が低いのです。
それどころかコミュニティの絆が強いがゆえに、他のコミュニティを警戒、遮断、敵視することも珍しくありません。
そのため変化が必要なときであっても、このコミュニティや環境を守ろうという心理のほうが優位なりやすく『できるだけ現状を壊さないように』という思考が主体的に働くのです。
また、同じコミュニティばかりに身を置いている人は自分の思想が最も正しいと思い込んでしまう傾向があります。
これはエコーチェンバー現象と言って、似たような価値観を持つ人たちのコミュニティでは自分の意見が肯定されやすいため、思想が強化されたり、自分が正しいと勘違いしてしまう、仲良し組の間で特に起こりやすいと言える心理現象です。
こうなると客観的、多角的視野に乏しくなりますから、危機的状況を認識しにくくさせてしまう要因のひとつともなり得ます。
もちろん仲良し組との付き合いが悪いというわけではありません。
飲食店経営者であれば、常連客や従業員、持ちつ持たれつな同業者や関係者がそれにあたりますから、大切な存在です。
しかし心を寄せる大切な存在でありながらも、変わらなければならないという局面では心の錘(おもり)になってしまう存在でもあるのです。
そもそも人間は一人一人が脆弱なため、群れで共生して生きていくようにできている生き物です。
それは、群れから離脱してでも変わる意欲と行動力がなければ共倒れの可能性も大きく潜んでいるということでもあります。
顔見知り人脈派の経営者は変化にも強く発展的
顔見知り程度の相手は、自分と異なる別のコミュニティに所属している可能性が高いので、仲良し組では知り得ない情報や、新奇的な発想をもたらしてくれます。
そんな関係から多分野の情報を蓄えることができるので、変化へも意欲的にチャレンジできます。
そもそも顔見知り人脈の広い人は、開放性(拡散的思考や好奇心)が高い人が多く、いろんな人や、新しいこと、一見不必要にも思える情報にも興味を持ちます。
その興味心からか、人の話を引き出すことが非常に上手、それゆえコミュニケーションも意欲的に見えるので、相手から「この人に情報をあげたい」と思ってもらえる得な性格の持ち主が多いです。
自分が身を置くコミュニティで仲間達との絆を育むより、あちこちのコミュニティから多彩な情報を得たほうが発展的な経営には有利であることはおわかり頂けると思います。
また、顔見知りは仲良し組(コミュニティ間)の橋渡し的な役割を担うとされます。
情報を広く伝播することができ、他の仲良し組同士の相互理解を促進すると言われています。
まとめ
もちろん飲食店経営においては地域柄や環境などによって戦略は様々です。
郊外や地方、その地域に密着した経営であれば『仲良し組』との関係性が重要である場合も多々あります。
しかし、発展的かつ変化にも果敢に挑んでいく経営を目指すなら『顔見知り』とのネットワークがキーポイントとなることでしょう。
言ってみれば、仲良し組との関係性に重きをおく経営者であっても、顔見知りとの関係は『あって絶対に損のない人脈』でもあるのです。
では、どうやってその顔見知り人脈を作っていくか。
社交的な方ならフットワークも軽いでしょうが、中には
「私はちょっと人見知りだからな…」
「薄い関係の人と面白い会話できるかな…」
と慣れ親しみのない人たちとのコミュニケーションに不安を感じる方も少なくないと思います。
日頃からできる顔見知り人脈の土台作りについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、よろしければ参考になさってください。
潰れないお店の強い土台作りは【顔見知り人脈】にアリ!閉店と無縁の飲食店集客術
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