「あそこのお店、閉めるんだって…」
私も長年、飲食店を経営しておりますから、こういう残念な話は幾度となく耳にしました。
もちろん、高齢、病気、家庭や環境の都合など、致し方なく閉められた方々もいらっしゃいますが、廃業で一番多い理由はやはり収益の問題です。
今回は、実際に収益上の問題『経営難』により廃業となった7つの飲食店の経緯と、廃業に至った大きな要因を分析して解説していきます。
まずはPart1として、バー、パン屋、焼き鳥屋、ラーメン屋の4つのお店の話、
次回Part2では、立ち飲み、家庭料理食堂、ラウンジバーの3つのお店の話をしていこうと思います。
バーA店の場合
若い男性マスターが3年ほど経営していたバー。
客席はゆったり間をもたせて十数席。
すこし遅めの20~21時(やや気まぐれ)にオープンして、お客様がいれば朝まで営業されていました。
店内はオールドアメリカン調。ピンボールがあり、客層は若めの方がメインでした。
フードはチーズやスナックなど軽いものだけ。
他で飲食をされたお客様が2件目3件目のはしごの終着点としてまったり飲みに来るパターンが多く、その状況下ではいくらも飲まないので客単価があまりいかないんですね。
このお店は駅から遠め、周囲の飲食店と言えば19時頃には閉まるカフェくらいで、21時にはだいぶ暗く人通りもほとんどなくなります。
最後にゆっくり飲むお店としてはちょっと行きづらい…。コンセプトと立地に少々ズレがあるようでした。
遅めの時間にオープンするのは『マスターがあまり料理に自信がないから』なのだとか。ディナータイムを避けたかったのですね。
遅い時間に営業するお店なら、繁華街や駅からの導線上にあれば、他の飲食店従業員さんたちの仕事終わりやアフターなどでも使いやすかったかもしれません。
マスターは独身で、店舗併用住宅にお住まいだったこともあり自分一人が生活していける収入(推定、十数万円)で問題なかったようですが、ある時、結婚と出産が重なり、その収入では家族を養うことはできないため、お店をやめられて現在は飲食店とはまったくちがうお仕事をされています。
パン屋B店の場合
実は私はわりと好きなパン屋さんだったんです。
種類は多くはなかったのですが、味、クオリティが良くて、お値段もリーズナブル。
お店はアクセスが良く駐車場もあり、おしゃれな内装、広くて買い物もしやすい、これからも人気のパン屋さんとして定着していくんだろうなと思っていました。
ひとつ、違和感があったのは、店内から少し見える厨房がいつもめちゃくちゃキレイだったんです。
良く言えば徹底的に清掃された厨房、悪く言えばあんまり使っていないような厨房。
それにいつ行っても厨房に動きを感じない…。
オープンされて1年半ほどだったか突然休業され、それから数週間後には閉店のお知らせの貼り紙がされていました。
共通の知人から話を聞くとどうやらこのパン屋さんは、パンの生地のほとんどを他業者から仕入れていたようです。
厨房の不自然なきれいさが納得できました。
パン屋さんは通常、粉から練り、発酵、焼きまでの一連の作業をこなすところがほとんどだと思います。(一部外注に頼ることはありますが)
このお店はある段階まで出来上がった生地を他業者から仕入れることで、人件費と作業コストの低減を図ったのでしょう。
しかし当然、材料原価は高くつきます。
機材や設備は大半がリースとのことでしたし、内装や備品もだいぶお金かけてるなぁ…という印象があったので、それらとの採算が上手くとれなかったのだろうと推測します。

焼き鳥屋C店の場合
サラリーマン客が多い大衆焼き鳥屋さん。
この焼き鳥屋さん、とにかくエネルギッシュで
『○時~○時はドリンクが全品半額』
『○曜日はレディースデイで女性客のみ終日ドリンク半額』
『毎月○日は焼き鳥の割引サービス』
と、タイムサービスが売りでもある焼き鳥屋さんでした。
開業当初は普通のよくある焼き鳥屋さんだったのですが、2年目に入ったあたりからでしょうか、いろいろなイベントやセールをやり始めてから、早い時間から満席で入れないなどその界隈ではなかなかの盛り上がりを見せていました。
次第にこれらのタイムサービスが定着していったという流れです。
タイムサービスを始めた頃は手ごたえがあったのでしょう。
しかしだんだん、人が集まるのはタイムサービスの時ばかりになり、それ以外の通常営業時には閑散としてしまうことが多くなっていきました。
おそらくお客様に損得勘定を抱かせてしまったのでしょうね。
人は得をしたい気持ちより損をしたくないという気持ちのほうが強いのです。
しょっちゅう割引されている商品を通常価格で購入するのはなんだか損したような気分になってしまいます。
また、馴化(じゅんか)も収益が減った原因の一つであると考えます。
馴化とは、最初は刺激的・魅力的だったものが繰り返されることによってその反応が減っていく現象です。
セールやキャンペーンも頻繁に開催されると特別感がなくなり「どうせいつもやっているし」「べつに今日行かなくても」と足を遠のかせてしまうことがあります。
このようなことから利益が上がりにくくなったのでしょう。
タイムサービスの日時や内容の変更などを繰り返したりとしばらく迷走状態が続き、
ほどなく閉店されることになりました。
そのイベント本当に集客できてる?失敗しないイベントの法則!飲食店の集客方法。催し・キャンペーン
小料理屋さんが始めたラーメン屋D店の場合

この小料理屋さん自体は現在も営業されているのですが、こちらの経営者さんが2店舗目として出したラーメン店が1年経たず閉店されました。
ラーメンはもともとこの小料理屋さんで700円で出していたもので、お客様からもとても評判が良かったため、新たに料理人を雇いラーメン専門のお店を立ち上げた、という経緯です。
店舗はスナックの居抜き物件で、ラーメン店仕様に多少の改装はしたようですが、予算の関係なのか、ただのセンスの問題なのか、スナック感が抜け切らずどうにも中途半端。
そのため外観だけでは、一目でラーメン店とはわかりにくく少々困惑してしまう佇まいです。
ラーメンは小料理屋さんのものより量やトッピングにアレンジをつけて価格は1000円前後。その地域ではやや高級価格設定です。
しかし正直なところ、まず店舗自体が高級感と真逆なんですよね。コンセプトが非常に伝わりにくい…。
そして、実際に食べたお客様の感想のほとんどは「1000円払って食べたいラーメンではない」ということ。
小料理屋のお客様にはとても人気の商品なのに、外に出してみたら真逆の厳しい評価。
どういうこと?と思うところだと思いますが、これ実は全く不思議な話ではないんです。
むしろあるあると言ってもいいくらいです。
なぜなら、“小料理屋さんのお客様”と違って、贔屓目が一切ないお客様たちからの評価ですから。
以前、別の記事にも書きましたが、お客様が発する「美味しい!」「ハマる!」といった褒め言葉は、あまり過信するべきではないのです。
詳しくはこちらで解説しているのでよろしかったら参考になさってください。
【客単価UP!メニュー決め4つの法則】顧客心理から売上を上げるメニューラインナップを考える
なにかと「うーん…」という感想をもたらす、決めどころのないラーメン店でした。

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人の失敗はいろいろなヒントをくれるものです。
次回part2では、立ち飲み屋、家庭料理食堂、ラウンジの3つの潰れたお店の話をします。
【Part2はこちら→その個人飲食店が潰れた理由【Part2】経営難に陥った7つの店の失敗談。原因 前兆 分析】